広告


楽天市場

カフネ

本屋大賞を受賞したと聞いて手に取った阿部暁子さんの『カフネ』。
広告

タイトルの「カフネ」は、ポルトガル語で“愛する人の髪にそっと指を通す仕草”という意味だそうです。
もうその響きだけで、少し胸があたたかくなるような気がしました。

物語のはじまりは静かで、でもとても重たい。
主人公の薫子は、法務局に勤める41歳。
最愛の弟の死をきっかけに、彼の元恋人だったせつなと出会い、彼女が働く家事代行サービス「カフネ」で自らも掃除を担当することになります。

薫子は流産や離婚、不妊治療の経験を経て、アルコールに頼る生活を送っていて、一方のせつなもまた、過去の傷を抱えて生きている。
それぞれにぽっかりと穴のあいたような女性たちが、見知らぬ人の家を掃除し、料理をし、暮らしにそっと手を添えていく中で、少しずつ何かが動き出していく。
その過程がとても静かで丁寧で、読んでいて自然と呼吸がゆるやかになるような感覚がありました。

特にせつなが作る料理の描写が印象的で、卵味噌など、何でもないけどちゃんとおいしい料理が、登場人物の心をほどいていくように感じました。
料理って、誰かのために作るというだけで意味が変わるんだなと、ふと自分の暮らしにも重ねたくなるような場面がいくつもありました。

「人は人の暮らしを通して、また立ち上がることができる」――そんな静かな希望を、物語全体がそっと教えてくれているような一冊でした。

読むタイミングによって、きっと受け取り方が変わる本だと思います。
今のわたしには、雨の日に差し出された傘のような、優しい読後感でした。