朝倉かすみさんの「平場の月」(光文社)は、派手な事件や劇的な展開よりも、“普通の日常”の揺らぎを静かに描いた作品です。
50代の男女の再会から始まる恋が、こんなにも胸の奥に温度を残すのかと、あらすじを追いながら思わず息が止まるようでした。
特別ではない日々の中で芽生えるもの
主人公の青砥健将と、同級生だった須藤葉子。
若さでも勢いでもなく、過去の傷や孤独を抱えたまま再び出会った二人が、
少しずつ距離を縮めていく時間は、とても静かで、どこか切ない。
華やかな恋愛とは違い、生活の延長線上にそっと置かれたような関係が、読む側の心にも自然と馴染んでいきます。
“平場”に見える感情の深さ
平場とは、特別ではない普通の場所。
その言葉がこの物語の世界そのものを表しているようで、二人の日常には派手さはなくても、丁寧に触れられた感情がいくつも重なっていきます。
病、別れ、老い――避けて通れない現実を背景にしながら、それでも誰かを思う気持ちは、年齢に関係なく確かに存在することを静かに教えてくれました。
読み終えたあとに残る静けさ
物語のはじまりで、すでに“別れ”が示されているのに、それでもページをめくる手が止まらないのは、二人が過ごす瞬間ひとつひとつがあまりにも人間らしくて、優しいから。
読後はしばらく言葉が出てこないような、胸の奥に薄い膜が張ったような静かな余韻が残ります。
静かに寄り添う一冊を探している人へ
明るく軽い物語ではないけれど、年齢を重ねたからこそ見える景色や、誰かと生きようとする気持ちに、そっと光を当ててくれる本でした。
日常の中でふと立ち止まりたくなるとき、「平場の月」のような物語を開くと、自分の心のかたちをそっと撫でられるような気がします。